MTGレガシー界隈を支配する闇の存在、それはジェイス。

そのジェイスに復讐を誓った男がいた!


「ドーモ、ジェイススレイヤーです。ジェイス殺すべし!」


・「屑」「殺」とメンポに刻まれたラクドスめいた赤黒の装束

・ノージェイス、ノーレガシーだ

・高度に極まったファンデッキはジェイスと区別が付かない

・ストーンフォージが開祖であるカウブレ・ジェイスクランが最大派閥

・ジェイスにとってのジェイスであるマローはグリーマックス・テンプルに眠ってる

・ジェイススレイヤー「グワーッバウンス!」


http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/
※この記事には、フィクション、中二病、悪疫等が含まれています。閲覧の際は十分にお気をつけ下さい。また、実在する人物、お店、カードゲームとは一切関係ありません。



 都内某所に存在するカードショップ『Dream』。
 一見何の変哲もないこの店の地下では、命を賭けた危険なゲームが夜な夜な行われているという……。

「では、私のターンだ……《Smallpox》を使わせてもらうよ」
 
 そんな馬鹿げた都市伝説に首を突っ込んで、親友は闇に消えた。三度の飯よりマジックが好きな親友は、ショップからも大会からも姿を消し、連絡すら尽かなくなった。

「そんな!? 手札、クリーチャー、土地、ライフに同時に攻撃するカードなんて!!」

 そして今、僕はその都市伝説を目の当たりにしていた……いや、その都市伝説そのものとなって、狂気のゲームに身を投じていた。

「ほう……驚きながらも冷静に《Bloodghast》を捨てるとはやるじゃないか。おい、貴様は彼の友人だったらしいな」

「はっ、魔王様。しかし案ずるには及びません、ヤツのデッキは《恐血鬼》と《カラストリアの貴人》のシナジーに重きを置いた中速の吸血鬼。……スタンダードのデッキです。魔王様が負ける可能性はありません」

 親友を救うために。……魔王と呼ばれるあの男に跪いて従う、豹変してしまった友のために……!



週間少年Stax 第一話 L氏という男


 ショップ『Dream』から二駅ほどまたいだ町の裏路地で、僕たちはようやく腰を下ろした。

「危ないところだったな、少年。あの魔王にスタンのデッキで挑むとは無茶をやる」

 この偉そうな小男に連れられてどれだけ走っただろう。言いたいことも聞きたいことも山ほどあったが、まずは荒れる心臓に酸素を送り込んでやるので精一杯だった。

「ほら、コーヒーだ。ブラックだが飲めるよな?」

 小男が差し出した缶コーヒーをひったくるように取り、二口飲んでから大きく息を吐いた。しかし、それでも息が整わない。疲れて動かない両足が震える。喉の底から得体の知れない寒気が来る。
 あの男、魔王と呼ばれたあの男と対峙した時に感じた怖気だ。ずっと押し殺して来た恐怖が、堰を切ったように溢れ出る。

「怖いか? だが無理もない。相手はあの魔王、神をも超えた黒マナの権化だ」

「こ……怖くなんてない! それよりあんた、どうして僕を連れ出したんだ!?」

 恐怖から目を逸らすように、思い出した怒りを小男に向けた。このL氏と名乗る小男は、ゲームの途中に突然現れて僕を連れ去ったのだ。
 最初の《Smallpox》にこそ驚いたが、《恐血鬼》を墓地に置けたこともあって流れは僕にあった。L氏さえ邪魔をしなければ、十分に勝てるゲームだったはずなのに。

「余計なことをしてくれたな、とでも? ……やれやれ。あの魔王の奥の手を受けていたら、お前さんの自慢の吸血鬼は全滅……いや、三分の一にされていただろうよ」

「三分の一? 意味がよくわからない」

「そのままの意味さ。そして、『例の魔法』はゲームの中だけじゃない、本物のライフすら奪う。奪われたプレイヤーは……お前の親友みたいにされちまうのさ」

「アイツがどうなったって? 『例の魔法』だって?」 

「お前の親友は魂まで支配されている。あれが『例の魔法』の力だ。その正体をはっきりとは言えないが……《smallpox》があるなら、スモールじゃないものもあるってことだ」

 L氏の語る馬鹿げた妄言が、今の僕にはすんなりと理解出来た。
 親友は、魔王の『例の魔法』に敗れ、魂を奪われてしまったのだ。そして僕も危ないところだった。妄想も甚だしいが、あの魔王の殺気に実際に触れてしまった僕には信じるしかない。

「……どうすれば、僕はあいつを救えるんだ?」

「話が早いな、少年。君はあの魔王ともう一度戦い、そして勝たなければならない。そのためのサポートは俺がしよう」

「どうしてあんたが戦わない?」

「魔王の黒マナは絶大だ。他の全てを暴力的に塗りつぶす黒……あの魔王に勝てるのは、同じ黒のマナを使えるものだけだ。……本来赤使いの俺が黒のデッキを使ったところで付け焼刃に過ぎない」

 ふと、僕は手元の缶コーヒーに目を移した。漆黒の水面に光が反射する。

「そして、お前のその吸血鬼……。そのデッキなら、このカードの力を最大まで発揮出来るかもしれない……」

 最初から用意していたのだろう、L氏は懐から一枚のカードを取り出した。古臭い茶色のカードには、《Smokestack》と書かれている。
 僕は手元の缶コーヒーをしばらく眺めた。そして、漆黒の液体を飲み干して放り捨てると、L氏のカードを手に取った。

「あの《Smallpox》と同じ……お互いにリソースを失うコントロールカード」

「そう。《恐血鬼》を使うお前のデッキにぴったりだろう? そのカードを使って戦うデッキを、アーキタイプ的にはStaxと呼ぶ」

「Stax……!」

 自分からリソースを失って戦う魔王。そこにこの《Smokestack》が突き刺されば……。
 勝てる。電撃に似た衝撃が全身を走った。マジックプレイヤーなら誰もが感じたことのある、電波ってやつだ。

「気に入ったよ、このカード。これなら俺のスタンダードの吸血鬼をレガシーレベルに引き上げられる」

「まあ、他にも色々貸してやるさ。……問題は、その《Smokestack》をどう維持するかだ。最初の数ターンはいいが、最終的にはどうしても全てを飲み込んでしまう」

「……? ススカウンターを一つか二つで止めればいいんじゃないか? 相手への被害も小さくなるけど」

 僕の言葉に、L氏は目の色も顔の色も変えた。彼にもまた、電波が降りたのだ。

「なん……だと……!? お前、もう一度言ってみろ、ススカウンターを……!?」 

「だから、カウンターを乗せるのは強制じゃないんだから数を抑えればいいだろうって」

「カウンターを乗せるのは強制じゃない!?」

 L氏は《Smokestack》を奪い取り、ずっとテキストと睨めっこをして、やがて肩を震わせた。笑っていたが、泣いてもいた。自らの愚かさに涙するかのように。

「この俺ですら気付かなかったことに、一瞬で……! やはり、天才か……!!」

「まさか、英語だから読めなかったのか? ……とにかく、そのカードをくれるならくれよ」

「いいや、気が変わった。渡す前に一勝負してもらうぞ。俺のM・D・Wとな!」

 デッキケースを取り出し、《Smokestack》をカードの束に差し込んだ。即ち、このデッキこそがL氏のStaxであり、M・D・Wだと言うことだ。
 戦いはもう避けられなかった。プレイヤーがここに二人いて、デッキがここに二つある。それだけで戦う理由には充分だった。

「M・D・Wだって!? 一体、どんなデッキなんだ……!!?」


つづく 

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